東京都市町村職員研修所
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亀谷二男講師
ごあいさつ
研修所で「学び、考えたこと」

ごあいさつ
この3月をもって三鷹市役所を定年退職し、4月から研修所講師の仲間入りをさせていただきました。どうぞよろしくお願いいたします。

 私は、昭和41年(1966年)に三鷹市役所に入庁して以来38年間、自治体職員として働いてまいりました。この間、健康福祉部長、企画部長、議会事務局長など様々な自治体現場を経験してきました。この現場経験をベースにしながら、今日の自治体の現状と課題について現役の職員の皆さんと一緒に考えてみたいと思っています。

 「新しいぶどう酒は、古い革袋に入れるな」という言葉があります。新約聖書にあるイエスの言葉とされ、新しい内容の事柄を理解するためには、古い形式にこだわってはならないというたとえだとされています。そんなことをすれば、革袋は破れぶどう酒も革袋も両方がだめになる。したがって「新しいぶどう酒は、新しい革袋に入れるものだ。そうすれば、両方とも長もちする」と結んでいます。このことは、新しい時代の要請に対応するためには、古い制度を見直し、新しい制度とシステムを用意することが必要であるということを示唆したものと受け取ることもできます。

 経済の拡大成長路線が終わり、成熟・低成長時代に移行し、日本の政治、経済、社会は今、大きな転換期にあります。時代の転換期には大きな異なった二つの潮流がぶつかり合い、その境目に古い酒と新しい酒が交錯していて、新しい酒を入れるための新しい革袋が求められてきます。

 転換期の新しい酒の香りを先取りして、新しい革袋を用意する作業がすでに始まっています。「分権改革による新しい地方自治」という革袋がそれであります。まだこの新しい革袋は未完成であり、また新しい酒も革袋を一杯に満たすほどにはなっていないかも知れません。しかし確実に新しい酒は発酵し続けており、新しい革袋の完成も急を要します。

 自治体は、分権型社会の創造という新しい酒を受け入れることのできる、新しい革袋に生まれ変わらなければなりません。古い革袋のままであれば、新しい酒は古い革袋を破り、たとえ話のように両方ともだめになるかも知れません。

 この4月、東京自治会館はスーパーリニューアルによって新しく生まれ変わりました。
 ひとつの新しい革袋の完成であります。この中で、多摩地域の様々な新しい酒が混ざり合って、多摩ブランドの新しい酒が生まれることが大いに期待されています。

 わが研修所も、そのための重要な役割を果たさなければなりません。
 私もその一翼を担い微力を尽くしたいと思います。改めて、よろしくお願いいたします。

研修所で「学び、考えたこと」
 4 年間お世話になり、いまは懐かしい「東京都市町村職員研修所」を3月で退職いたします。 三鷹市役所を定年退職の年、運良く講師職に空席があって非力を顧みず応募いたしました。以来4年間、仲間の講師の方々、 事務局職員の皆さんはじめ関係者の皆さん、さらには各自治体の研修生の皆さんにも励まされてなんとか責任を果たすことが出来ました。 皆さんには大変お世話になり心から感謝申し上げます。
 40年近い自治体職員としての経験をネタにすれば、何とかなるだろうと甘く考えていましたが(失礼)、分担する研修科目も多岐にわたり、 現実はまさに大学時代以上の勉強の4 年間で貴重な充電期間となりました。それにもまして、ひとたび自治体現場を離れて客観的に自治体の現状を眺めることができ、 さらには東京都全体の各自治体がそれぞれの地域課題に取り組んでいる姿勢を身近に感じ取る機会となったことは、私にとって大きな収穫でした。そのことを通して、 改めて自治体の存在意義とこれからの課題について考え再確認することができた4年間でありました。もちろん、この間は郵政民営化に象徴される「官から民へ」 の改革の嵐が吹き荒れ、自治体行政にもアウトソーシングに集約される「経営」概念の導入が大きな潮流になってきたことも、自治体の存在意義を強く問いかけてきました。
 そんななかで、私なりに再確認した自治体の存在意義を次の5点に整理してみました。

 1.自治体は、自立した地方政府であり市民の信託に応えて政策責任を果たすこと。
 2.自治体の政策責任とは、地域における住民生活の公共的課題を解決すること。
 3.自治体の仕事は、すべて住民生活の公共的課題を解決するために役立つこと。
 4.だから、自治体の仕事は、すべて自治体政策の実施そのものとして把握すること。
 5.したがって、自治体の政策展開(PDCA)から遊離した自治体経営は成立しない。

 端的な五段論法になりました。ポイントは、自治体の個々の仕事が住民生活の公共的課題を解決することに役立っているかどうかの判断でしょう。 ここに政策論争の必要性があります。まったくの基本事項ですが、何事にも基本を確認することが大切です。 
 いずれにしても、住みやすい地域社会は、そこで生活する住民と住民の信託を受けた自治体政府が作りあげるもので、他に責任転嫁することはできません。 そこに自治体と自治体職員の役割と使命と責任があります。21世紀は、経済成長から「社会成長の時代」だと言えないでしょうか。社会成長とは、 もちろん地域社会の生活価値を高めることです。ここに自治体で働くということの意義があるのではないでしょうか。皆さんのご活躍を期待しています。
研修情報誌「こだま」第94号(平成20年3月31日発行)掲載『研修所を去る講師から』より